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壁の中

第五章 壁の中 彩はその夜、眠れなかった。 壁の向こうの声は、名前を聞いてもすぐには答えなかった。長い沈黙の後、「浜田」と言った。浜田という苗字だけ。年齢は言わなかった。「いつからそこにいるんですか」と彩は聞いた。「わからない。長い。とても...
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声の正体

第四章 声の正体 五月になった。 彩は引っ越すことを決めていたが、なかなか動けなかった。物件を探す時間がない。お金が不足している。そういう現実的な理由もあったが、それ以上に、何かを放置して逃げるような後ろめたさがあった。 田中に改めて相談し...
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前の住人

第三章 前の住人 管理人の老人は、渋々ながら前の住人の話をしてくれた。 前の住人は二十代の女性で、森田という名前だった。一年半ほど住んでいた。おとなしくて、挨拶はするが特に交流はなかった。しかしある時期から様子が変わった。 夜中に、203号...
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203号室

第二章 203号室 空室であることを確認したことで、彩の不安は増した。 人がいないはずの部屋から音がしている。それは単純に不気味だった。しかし引っ越したばかりで、また引っ越す余裕も気力もなかった。仕事は忙しく、深夜まで残業することも多い。疲...
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隣の部屋の音

隣の部屋の音第一章 引っ越し 松本彩は二十四歳の春、東京の端にある古いアパートに引っ越した。 間取りは1K、六畳、バストイレ別、家賃は五万二千円。渋谷の会社まで電車で四十分かかるが、この家賃は彩にとって精一杯だった。大学を出て二年目、広告代...